恋愛依存症について

恋愛依存症はアルコール依存症や薬物依存症といった明確に診断基準がある依存症ではありません。
しかしながら、恋愛依存で苦しまれている方の苦しみというのは凄まじいというか、ここまで苦しいのかと驚きを禁じ得ないことがあるほどです。
「恋の病」なんていわれることもある恋愛ですが、相手との関係や失恋を通して「死にたい」と泣いていたり「裏切られた!殺してやりたい!」などと叫んでいる人たちを目の当たりにするたびに、ある種の恋愛はまさしく病気なのだなと感じてしまいます。

経験のない人たちには、決して分からないだろう。そうした傾向を持たない人たちには、理解や共感は不可能だろう。しかし“苦しい恋”に引き寄せられ、そこから抜け出せない人たちは、たくさんいる。しかも、やっとのことで一つの苦しい恋に終止符が打てたのに、“また何度も”同じことを繰り返してしまう人たちは、確実に存在するのである

まさに我が意を得たりという文言ですね。これは心理学者の伊東明さんの著書「恋愛依存症」の冒頭にある言葉です。
今回は伊東さんの著書を使いながら恋愛依存について話をしていきたいと思います。

恋愛依存症とは

著書には恋愛依存症について以下のように書いてあります。

恋愛依存という言葉が広がっていったのは、一九七五年スタントン・ピールとアーチー・ブロドスキーが“Love and Addiction”というタイトルの本を著して以来であると言われる

特に深刻なケースでは、そのような恋愛が依存性のある薬物の仕様よりも時には大きな危険をはらんでいることを示唆したのである

恋愛依存の定義や用語使用については、いまだに明確でなく、統一されていないのが現状である。欧米では“Love Addiction”という言葉は学術的研究や書籍・雑誌記事などで頻繁に用いられるものの、アルコール依存症や薬物依存症ほど明確な診断が下されるものではない

とあります。
恋愛依存症は、現時点では疾病としての概念が定まってはいないようです。しかし、その他の依存症と同じく、恋愛依存に陥った人はその相手のことや、あるいはセックスといった行為について四六時中考えるようになり、生活全般がそれらを中心に回るようになっていきます。
相手と一言LINEがつながれば安堵し、少しでも連絡がつかないだけで途端に精神的に不安定となる。あるいはセックスができないだけで精神的に不安定になってしまう。
そのような姿は薬物依存症者が薬物を求め、禁断症状に苦しむさまと酷似して見えます。
また、現代における恋愛第一主義的価値観は、誰しもが恋愛依存症という病に陥る危険をはらんでいると言えます。
かく言う私も、失恋をきっかけに仕事をやめたり。すべての人間関係をリセットして半年ほど家に引きこもっていた時もあり、当時を振り返ると恋愛依存だったな・・と思います。

恋愛依存

恋愛依存症の4タイプ

著書の中では恋愛依存症のタイプについて4つに分類してあります。①共依存②回避依存③ロマンス依存④セックス依存 とあります。
この4タイプを知ることによって、それぞれの恋愛依存の特徴、苦しさが見えてくると思います。以下、それぞれのタイプについて詳しく述べていきます。

① 共依存

共依存の理解をするためには、アルコール依存症者とそのまわりにいる人物たちとの関係を想像してみるのがよいだろう。(中略)酒を飲み続け、酒を飲んでいない時は酒を飲むことばかりを考えている人間が、どうやって一人で生活していくことができるのであろうか?(中略)極端な言い方をすれば“アルコール依存症者のまわりには、その人がアルコール依存症を続けることを可能たらしめている誰かがいる”と考えられるのである。

共依存では、はたから見た場合の“ひどい相手(加害者)”と “被害者”が、実は心の奥底では互いが互いを必要としているのがポイントなのである

“共依存症者は人助けに飢えている”と表現されたり(中略)悩んでいる人や困っている人を自分の力で救いたいとの衝動に駆られる

ー仕事や金銭的な面がうまくいっていない者、性格的・情緒的に問題がある者、心に大きな悩みを抱えている者(中略)共依存症者が恋愛相手として選ぶのは、このように“問題を抱えた者”であることが多い

とあります。
共依存症の方は「この人を助けられるのは自分しかいない」などと言い無自覚に自ら不幸な恋愛を選んでいきます。内心、別れたいと思っていても「別れたらこの人は死んでしまうから」などと理由をつけては、苦しい関係を無自覚に継続していきます。
同じ悩みばかり話すので、周りからも孤立するようになり、より相手との関係を強固なものとして苦しさを重ねていきます。

② 回避依存

“共依存症者のパートナーとなる人物”という文脈で回避依存について述べている。

(前略)魔法のごとく互いが引き寄せられるからである。共依存者同士、回避依存症者同士の恋愛ももちろんあるのだが、圧倒的に多いのがやはり“共依存+回避依存”の組み合わせなのである

とあります。
不可思議なことに、まるで定められた運命のように共依存症者と回避依存症者は引き付け合います。
そして、苦しいのに離れたいのに離れられないという特殊な関係を作っていきます。

共依存者がパートナーとして選んでしまう回避依存症者について、もう少し詳しく述べていくと。回避依存症者には4つのタイプがいます。独裁者・搾取者・ナルシシスト・脱走者とあります。
それぞれについて簡潔にまとめると以下のように書いてあります。

  • 独裁者はそのままで支配をしてくる相手のことです。「アレができていない、こうしろ。こうなれ、ああなれ。こうなったのは全部、お前のせいだ」こういった精神的暴力のみでなく、時に身体的暴力を使って相手を屈服させ支配していきます。
  • 搾取者は独裁者と違い「支配」を目的とせず、相手を利用して「搾取」することを目的としています。その手口は非常に巧妙で、例えば「私のことを思っているなら愛しているならお願い」といった言葉を使い、暗に助けないということは愛していないということだよねと感じさせたり。「もうお終いだ。どうしたらいいんだ・・」と助けてくれと言わんばかりの圧力をかけていきます。こういうものを心理的恐喝と言いますが、そういう言葉を使って相手から目的のもの(お金・物・家事・セックスなど)を搾取していきます。
  • ナルシシストは、本来、自分自身がこの世界において大切だという感覚と同時に他者も大切で欠くべき存在であるという感覚、両方がバランスを持って成立しているはずが、ナルシシストはいつまでも自己愛の世界にとどまっています。
    そのため、考えることは常に自分のことばかり、自分が優れていることは過度に誇張し、物事が自分中心で進まないと気がすまなかったり。反面、相手の気持ちにはまったく共感できないという特徴があります。
  • 脱走者は束縛への嫌悪・恐怖が過剰で、束縛されたらすべてが終わりだぐらいの強迫観念にとらわれています。
    愛すれば愛するほど相手がどんどん離れて行っているような気持にさせられる。愛が深まってきたと思えるようになった、その瞬間に「一人になりたいんだ。別れてほしい」と言い逃げていくことさえあります。

どうしても、独裁者タイプなどを見ると回避依存症者に対し嫌悪感を持ってしまうところです。暴力などあれば、なおさらそれは加害行為であり、共依存症者は被害者に見えるものだと思います。また、回避依存症者より共依存症者の方が圧倒的に苦しんでいる場合が多いですから、そういった面でも共依存者側に共感が強くいくものだと思います。
とはいえ独裁者タイプも、彼女(彼)が離れていくと、それに耐えられず泣いている・・そのような姿を見ると同情してしまうところもあります。
被害加害は置いといて、回避依存症者、共依存症者どちらも苦しんでいるのは確かなのだと思います。

③ ロマンス依存

“穏やかで平凡な恋愛”と“危険に満ちた波乱万丈の恋愛”(中略)自分が実際に体験するとなったら(中略)迷いが生じるのではないだろうか。(中略)しかし、何の躊躇もなく後者を選び、実際にそうした恋ばかりを何度も何度も繰り返し体験している人たちがいる。穏やかで平凡な恋などには見向きもしないし、まったく満足感も得られない。それが、ロマンス依存“Romance Addiction”なのである

とあります。

ロマンス依存症者にとって恋は刺激的なゲームのようなものであったり、あるいは理想化された空想の中の出来事です。
例えば、不倫関係に刺激や興奮を感じていたなら、相手が離婚した途端に気持ちが覚めてしまったり。恋愛が成就し、空想が実現化したと思っていたら、時間が経つにつれ気持ちが覚めてしまったり。
ロマンス依存症者はそこから苦しみが始まります。自分を支えていた空想の世界が崩れ、現実の自分に向き合わなければならなくなるからです。ロマンス依存症者にとってこれほど辛いことはないのです(だからこそロマンスに依存している)。なので一刻も早く逃れるため、また前と同じように空想を始めていきます。
ロマンス依存でカウンセリングに来られる人は、苦しんでいる失恋をしたタイミングでこられます。しかしながら次の恋を見つけた時点でカウンセリングも終了することも多いです。ロマンス依存症者にとってロマンスは見つけやすいのか、変わる必要性を見いだせにくい部分なのかもしれません。

④ セックス依存

セックス依存(Sexual Addiction)とは“セックスという行為(観念)に取り憑かれている状態”“セックスをせずにはいられない状態(セックスのことを考えずにはいられない状態)”“性衝動を自分ではコントロールできなくなっている状態”である

“セックス”という言葉には(中略)多くの人が思い浮かべるような意味だけがこめられているのではない。(中略)アダルトビデオ・本・雑誌・インターネットなどメディアにおけるセックスに耽溺するものである。(中略)露出、窃視(のぞき)、小児性愛、SM、フェティシズム的性行為に耽溺する

セックス依存というのが、ただ単純に“セックスが大好き”とは違う(中略)セックス依存は自分にも、周囲の者にも、見知らぬ他社にも深刻な被害をもたらしうるものなのである。性病、金銭的なもの、社会的地位の喪失・逮捕、家族との不和、家族への虐待、セックスをしていないときの空虚感、不安感、焦燥感、自分がセックス依存であることの罪悪感(中略)など、挙げていけばきりがない

とあります。

あまり知られていないことかもしれませんが、セックス依存症とは性的な依存(強迫性)全般を指して言います。
当店でも、窃視症(のぞき)、窃触症(痴漢)といった問題を抱えてカウンセリングに来られる方もおられます。
また、他にも風俗通いがやめられないといった相談、パートナーへの毎日のセックスの強要から関係性を壊してしまっているという相談といったものから。
性虐待やレイプに合われた人が、再行動化と言いますが、トラウマを解消するために苦しみながら性行為を繰り返していたり。あるいは、性的な被害にあわれた人が復讐のために(無意識に)キャバクラや風俗店で働くというものも、よく見られる行動であると言えます。
セックス依存と一言で言っても、孤独を埋めるためのものであったり、トラウマを癒す行動であったりと、その原因はさまざまです。

恋愛依存から回復するために

著書には、恋愛依存の回復とは

健康な人間関係が持てるようになること

とあります。
健康な人間関係とはどういったものか。
・自分と相手の間に適切な境界線が引かれている
・「与えること」と「与えられること」のバランスがとれている
・お互いありのままの自分を、ありのままの相手を受け入れている
・「親密さ」を恐れない   ……などとあります。

著書には恋愛依存から回復するための手引きも記してあります。
まずは、自身に問題があると認めることです。
恋愛依存症者は自分に問題があることを防衛機能で巧みに回避します。
「いろいろあるけど幸せよ」「愛しているから仕方がないのよ」「彼さえ変わってくれれば・・」「他の人だって同じようなものでしょう」などと。
いつまでたっても変わらないことを思い続けるから、いつまでも苦しみ続けるのです。自分に問題があるということは、自分次第でいくらでも変化が可能だということです。「どうすることもできない」が「どうにかできる」に変わるのです。

回復には他者からの助けが必要です。
自分ひとりの意志だけで完全に依存症から回復することは非常に難しいです。病に対して自分は無力だと知ることです。
できないことは素直に認め、他者に助けを求めましょう。
当然ですが、助けを求めるといっても家族やパートナーという当事者に助けを求めても苦しくなったり、同じ考えから抜けていかないのでやめましょう。
専門のカウンセリングに行ったり、自助グループに参加しましょう。
秘密や悩みによる苦しみというのは、話して外に出してしまうだけでかなり軽減されます。これこそカウンセリングの最大の効果でしょう。
自分の秘密をさらけ出しても大丈夫だったということになると、安心感を感じ、孤独や孤立感から救われていくという好循環につながっていくことでしょう。
人に話せない悩みは、不安感、孤独、孤立感を生みます。それは、恋愛依存へののめり込みにつながっていきます。

著書には他にもいろいろと書いてありますが、ここで詳しく丁寧に書くことはできませんので。残りは著書を購入していただき読んでいただけたらと思います。

大きく手を広げて自由を表現する女性

おわりに

人の苦しさの大半は人間関係の苦しさです。
人間関係の苦しさでも、人目を気にしてしまったり、対人恐怖があって人とうまく付き合えないという人もいますが。恋愛依存の苦しさこそが究極の人間関係の苦しさといって差し支えないでしょう。
今までたくさんの本を読んできたが、どの本を読んでも内容が薄かったり、自分と感覚の違うことが多々ありました。
しかし、この伊藤明さんの「恋愛依存症」という本は、とても強く共感ができたし、人間関係に苦しんでいるすべての人に読んでいただきたい本だと感じました。
僕のブログを読んで共感できている人には、きっとこの著書は気づきや助けになると思います。ぜひ、みなさん読んでみてください。

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